トビリシのレコード店で起きた小さな奇跡。サペラヴィとアニタ・ベイカーの夜

トビリシの夜道 Culture

このブログでは、トビリシの部屋で過ごす何気ない夜の記録も書いています。今回は、レコードショップでのささやかな出来事が忘れられない思い出になった話です。

グラスの中の紫と、針を落とす音

グラスに注いだ濃い紫色のサペラヴィ(Saperavi)から、ベリーのような力強い香りが立ち上る。ペットボトルに詰めてもらった、いつもの量り売りワインだ。

ゆっくりとレコードに針を落とす。スピーカーから流れ出してきたのは、アニタ・ベイカーの『Sweet Love』。

部屋が豊かだけど少し切ない、あの極上のメロウな空気に満たされていく。渋みのあるワインを口に含みながらこのソウルを聴いていると、このレコードを手に入れたときの出来事がじんわりと蘇ってくる。あれは、音楽が繋いでくれた本当に特別な、一瞬の奇跡のような時間だった。

セールコーナーで見つけた、お買い得な1枚

anita bakerのレコード

いつものように、トビリシのレコードショップ「Retromania」にふらりと立ち寄ったときのこと。何気なくセールのコーナーをディグっていると、信じられないジャケットが目に飛び込んできた。アニタ・ベイカーの1986年の名盤が、めちゃくちゃ安く出ている。

「うわ、これ絶対にお買い得じゃん……!」心の中で小さくガッツポーズをしながら盤を掴み、ニヤつき顔のままレジへ向かった。

レジ前で交わした、言葉のない「わかってるね」

レジに並ぶと、前に先客が1人いた。会計をしているわけではなく、ただ店員と親しげに音楽の話を楽しんでいる様子だった。

後ろに並ぶと、その人はすぐに気づいて「ごめんごめん」という風にスッと横にズレて場所を譲ってくれた。その瞬間だった。彼女の目元が、手にしているレコードジャケットに向いた。

ジャケットを見た彼女の目が、ふっと細められる。そして私を見て、ニヤリと笑いながら深く、深く頷いた。言葉は一言も交わしていない。けれどその目は完全に「わかってるじゃん。それ、最高だよね」と語っていた。これだけでも、レコード好きとしてはたまらなく嬉しい瞬間だった。

入り口から聞こえてきた、まさかの鼻歌

「マドロバ(ありがとう)」と会釈をして会計を済ませ、レコードを抱えて帰ろうとしたとき、さらなるサプライズが待っていた。

先ほどの彼女が、まだショップの入り口付近に佇んでいた。すれ違いざま、彼女の口元から優しく、でもはっきりと、あの馴染みのあるメロディが漏れてきたのだ。買ったばかりの『Sweet Love』を、彼女は鼻歌で口ずさんでいた。

鳥肌が立った。「うわ、めっちゃ嬉しい……」という感情が、体の内側からぶわっと湧き上がってくる。自分が心の底から愛している音楽を、今、目の前にいる異国の誰かも同じように愛している。ただそれだけの事実が、信じられないほど愛おしく、誇らしく思えた。

彼女が帰り際に手を振ってくれて、私もそれに返し、そのまま温かい余韻を胸に抱いて店をあとにした。

音楽が「重なり合う」という、最高の快感

数ヶ月経ち、今こうして量り売りのワインを嗜みながら『Sweet Love』を聴き直している。

ふと思った。何気なく過ごしている日常だけど、自分にとって「好きな音楽が、他の人とぴったりマッチする瞬間」は、想像以上に脳汁が出るというか、ものすごく快感度が高い行為なんじゃないか、と。

言葉の壁なんて関係ない。生まれ育った背景も違う。それでも、ただ一瞬、ひとつのメロディと1枚の12インチのプラスチック(レコード)を介して、お互いの感性が100%シンクロする。「お前もこれ好きなんだ?最高だよな」。あの無言の通じ合いがあるから、ディグはやめられないし、音楽を聴き続けているのだと思う。

針を落とした瞬間の空気感と一緒に、Instagramでリールを投稿しています。夜のBGM代わりに覗いてみてください。

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本日の一枚、Anita Baker / SWEET LOVE

この「しっとり感」はやっぱりアナログ盤でこそ引き立つ。もしターンテーブルがあるなら、ぜひあなたの部屋の夜のBGMにしてみてほしい。

1枚のレコードが、言葉の通じない相手とも心を通わせてくれる。そんな小さな奇跡が、今夜もどこかで起きているのかもしれない。

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