AI「Claude」のCMオーディションで謎の即興劇に巻き込まれた、トビリシの一日

オーデション会場 Essay

このブログでは、トビリシで暮らしていると時々巻き込まれる、予想外のハプニングも記録しています。今回は、ある日のオーディションが思わぬ展開を見せた話です。

人生、何が起こるか分からない

ましてや、ここはジョージアの首都トビリシだ。歴史ある古い街並みと、世界中から集まるデジタルノマドの熱気が奇妙に融合したこの街では、日常のすぐ裏側に予期せぬ超展開が潜んでいる。

先日、私はAIツール「Claude」のコマーシャルオーディションの2次審査に行ってきた。

オーディション

きっかけは、現地のジョージア人の友人が「こんな仕事があるよ」と声をかけてくれたことだった。1次審査はスマートなものだった。英語での自己紹介動画をスマートフォンで撮影し、数枚の写真と一緒にオンラインで送るだけ。いかにも現代らしい、デジタルノマド的なプロセスだ。

それがまさか通過し、指定された会場へ向かうことになった。そこで待っていたのは、最先端AIという言葉の響きからは最も遠い、極めてアナログでシュールな空間だった。

怒涛の3大エモーション

オーディションを待つ自分

会場は、トビリシ市内にある結構大きな施設だった。案内されるまま2階に上がると、ちゃんとした施設のハコモノらしい安心感とは裏腹に、扉の向こうには独特の空気が漂っていた。

部屋にはすでに数人の男女が待機していた。国籍も外見もバラバラなメンバーが、どこか緊張した面持ちで並んでいる。

「じゃあ、カメラの前に横一列に並んで。これから演技をしてもらうから」

カメラマンの無骨な声が響く。なんと2次審査は、8人同時進行のグループ演技審査だった。指示は、AIの利便性とは何の関係もない、純粋な感情表現の3本ノックだ。

「はい、最初は『お葬式で本当に悲しい時の演技』ね」

カメラが一斉に舐めるように動く。次の瞬間、8人の男女がいきなり絶望の表情を浮かべた。ハリウッド俳優ばりにシリアスな顔で今にも涙を流しそうなジョージア人もいる。広い空間に、異様な空気が満ちる。

「はい、今度は『何かに怯えて、めちゃくちゃ恐れている時の演技』!」

間髪入れずに次の指示が飛ぶ。大袈裟なジェスチャーで頭を抱える人、叫び出す人もいる中、私も必死に脳内の「恐怖」の引き出しを開けて顔の筋肉を歪ませる。「一体、私は何をしているんだ」という疑問がよぎるが、考える暇はない。

「ラスト!『親友の結婚式に参加して、心から喜んでいる時の演技』!」

最後は狂喜乱舞。さっきまで絶望し、怯えていた8人が、一転して満面の笑みで拍手を送り、歓声をあげる。シュール極まりない「感情のジェットコースター」は、数分間の濃厚なカオスを経てあっけなく幕を閉じた。「はい、オッケー」という声とともに、部屋には妙な連帯感と、それ以上の苦笑いが広がった。

カズベキビールという名の現実逃避

カズベキビアーの外席

会場を出た瞬間、どっと押し寄せる奇妙な疲労感。解放された安堵感と、「自分はいったい何をしていたんだ」という笑いがこみ上げてくる。

そのタイミングでスマホが震えた。友人からの誘いだ。「今飲んでるんだけどこない?」断る理由はなかった。

向かったのはカズベキビアー。ガラスの重いジョッキに注がれた、冷えた黄金色の液体。喉に流し込んだ瞬間、悲しみも恐怖も歓喜も、すべてが爽快な泡と一緒に消えていく感覚に陥る。

友人に事の顛末を話し、地元の乾杯の掛け声「ガウマルジョス!」とともにもう一口ビールを煽る。冷えたローカルビールが、火照った顔と疲れた脳を心地よく冷ましてくれた。

だが、トビリシの日常はこれだけでは終わらない。見知らぬ現地のおっちゃんが、妙に人懐っこい笑顔で話しかけてきた。ジョージア語と身振り手振りの会話。ひとしきり盛り上がった後、おっちゃんはなぜか5ラリ札を握らせてくれた。理由は今でも分からない。外国人ノマドへのささやかな歓迎なのか、ただ気分が良かっただけなのか。

予期せぬ出会いと、最高の日常に乾杯

ジョッキを傾けながら、ふと思う。もし日本で普通に暮らしていたら、あるいはただ部屋にこもるだけのノマドだったら、こんな経験は一生できなかっただろう。

「AIのCMだから」と行ってみたら、施設の2階に集められ、見知らぬ異国の人々と横一列に並んで全力で泣き、怯え、笑う。そんな嘘みたいな数分間は、人生のどこにも予定していなかったイベントだった。

こんな突飛で面白い機会をくれたのは、紛れもなく現地の友人だ。彼女が声をかけてくれなければ、私はいつも通り淡々とテキストを書いて一日を終えていたはずだ。言葉も文化も違う土地で、自分の世界を予期せぬ方向へ広げてくれる友人がいる。そのことへの感謝が、ビールの心地よい酔いとともにじんわり胸に広がる。

予測不可能なカオスと、それを笑い飛ばせる温かい日常。この組み合わせがあるからこそ、トビリシでの暮らしは愛おしい。次にまた突拍子もない話を持ってきたとしても、私はきっと二つ返事で飛び込んでしまうのだろう。

今日のおまけ、トビリシの夜風と冷えたビール

オーディションの強烈な疲労を溶かしてくれた、あのカズベキビールの喉越し。冷たいビールが飲みたくなった人は、自宅の冷凍庫でジョッキをキンキンに冷やして乾杯(ガウマルジョス!)してみてほしい。

これを片手に、いつかトビリシのビアガーデンで謎のおっちゃんから5ラリ札をもらう妄想でもしてもらえたら幸いだ。

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